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JAPAN

食を通じて、世界を理解する。 パタゴニアが食ブランド「パタゴニア プロビジョンズ」を通じて社会に問うこととは?

text by Kyoko Kita

アウトドアウェアブランドの「パタゴニア」が、食の世界に参入――
「一体なぜ?」と思いますか、それとも「やっぱり」でしょうか。

厳しい雪山での使用に適う軽量で温かいジャケット。高山の地吹雪や嵐にも立ち向かえる防水性、透湿性、防風性に優れたウェア。丈夫で収納力抜群のパック(リュックサック)など。
その機能性はアウトドアシーンのみならず、一度使ったら日常でも手放せないと、パタゴニア・ラヴァーは言います。

また一方で、パタゴニアを支持する人の中には、そのポリシーに賛同しているからという人も少なからずいるでしょう。
パタゴニアは、決して規模の大きい会社ではありませんが、ビジネスを通じた環境保護に関してはパイオニア的存在で、その取り組みは「ウォールマート」などの大企業にも影響を与えてきたのです。

本来の自然を楽しむには、その姿を変えてはいけない。

パタゴニアの前身である「シュイナード・イクイップメント」は、1960年代の終わりに創業。当時はクライミング道具を販売していました。創業者であるイヴォン・シュイナードが、自分や仲間のために作った道具が評判となって始めた小さな会社でした。しかし、ロッククライミングの人気と共に需要が高まり、数年でアメリカ国内で最大のサプライヤーとなります。
それは、喜ばしいことであると同時に、残念な結果をもたらしました。
クライミングに欠かせないピトンと呼ばれる杭は、打ち込む時も引き抜く時もハンマーを使うため、岩にダメージを与えていたのです。クライマーが殺到する人気ルートでは、その状況は深刻でした。

この事実を知ったイヴォン・シュイナードは、すぐにピトンの製造と販売を取りやめる決断をしました。ピトンは当時、事業の大黒柱であったにも関わらず。
そして、ピトンに代わる岩を傷つけない新しい道具(安全性は同等で、従来品より軽量)を開発し、一つのメッセージと共に世に送り出しました。

「キーワードは“クリーン”。ハンマーでピトンを繰り返し打ち付けたり引き抜いたりしなければ、次のクライマーがより自然な形で岩を経験できる。クリーンとはつまり岩の形状を変えないことであり、人間が本来のクライミングに近付く第一歩でもある」(一部、中略)

数カ月間でピトンの売り上げは激減し、新商品の注文が殺到したそうです。
「正しいことをしていると思えばこそ、我々は前に進めた」とイヴォン・シュイナードはその著書の中で振り返ります。

環境への悪影響を最小限に抑える。


ウェア部門として立ち上げた「パタゴニア」にも、その精神は引き継がれました。
たとえば、オーガニックコットンを業界の中で先駆けて採用しました。
実は綿の栽培には大量の化学薬品が使われます。たった一人の販売スタッフの体調不良の原因を探り、その事実に行き着いたパタゴニアは、1994年、綿を使った全商品をオーガニックコットンに切り替える決定を下します。
その英断と成功を見届けた大企業が追随するのは、何年も経ってからのことです。

これはほんの一例に過ぎません。
繊維染色の排水処理や、羽毛を採取する鳥の飼育方法、縫製工場の労働環境に至るまで、商品が作られて消費者の手に届くまでのあらゆる過程で、自然や動物、人に与える悪影響を極力減らす努力をパタゴニアはしてきました。

消費行動を問い直す。

「このジャケットを買わないでください」
これは、2011年にパタゴニアが出した新聞広告のキャッチコピーです。環境に対する負荷を小さくするためには、そもそも消費される物の量自体を減らさなければならない、という考えに至ったからです。
本当に必要なものだけを買ってほしい、長持ちするものをよく吟味して買ってほしい。
メーカーとして高品質なものづくりを誓うだけでなく、顧客にも消費行動の責任を問うこのメッセージは、パタゴニアという企業の在り方を象徴しています。

CSRの一環で環境保護に取り組む会社は多くあります。しかしパタゴニアのベクトルはまるで逆。
「ビジネスを手段にして、環境危機に警鐘をならし、解決に向けて実行する」(ミッションステートメント) 環境保護こそ、目的そのものなのです。

食のあるべき流れを取り戻す。

そんなパタゴニアが、食品部門を立ち上げました。その名も「パタゴニア プロビジョンズ」。




日本での販売を担当する近藤勝宏さんに話を聞きました。
「今、食品をめぐる自然環境は急速に悪化しています。
魚介類が乱獲され、家畜は抗生物質漬けに、農作物にも大量の化学薬品が使われて、健康な土壌が失われています。遺伝子組み換え作物の影響も未知数です。
地球温暖化の最大の原因の一つが食品産業だとも言われています。
そんな中で、本来あるべき食の流れを取り戻そうという試みが、パタゴニア プロビジョンズです」。




注目すべきは、全くの異分野であるにも関わらず、コンセプトを同じくする既存の商品をセレクトして販売するのではなく、パタゴニアが商品開発から手掛けていることです。

「“クラフトマンシップ”という言葉に尽きると思います。本質はクライミング道具を売っていた頃と少しも変わっていません。
イヴォン・シュイナード自身が食べたい、仲間や家族に食べさせたい、最高の食品を作ろう、と」。



100年先を見つめて。

たとえば、ロングルート・エール。
文字通り、3メートルもの長い根っこを持つ「カーンザ」という新しい品種の麦を使ったビールです。
「実は植物を栽培するという行為は、それだけで土壌にストレスを与え、そのサイクルが短いほど表土を流失させます。土は石油同様に再生できない貴重な資源でありながら、今、世界中で急速に失われていて、大きな問題になっているのです。
従来の麦は一年草ですが、カーンザは多年草。何年にも渡り不耕起で栽培ができるため、表土の流失を最小限に留めることができます。しかも根っこが長いので少ない水で栽培が可能で、空気中の二酸化炭素を多く蓄えてくれます」。




このカーンザは、「ランド・インスティテュート」という研究施設で開発された品種です。課題の糸口になりうる優れた性質を持つ麦ですが、用途を探るのに難航し、実用化できるのは数十年先だろうと言われていました。
その活路を見出したのが、パタゴニアだったのです。
オーガニックビールを手掛けるオレゴン州ポートランドのブルワリーに醸造を依頼。共に味の方向性を探りつつ試行錯誤の末にこのビールが誕生しました。




パタゴニアらしいアウトドアシーンにフィットしたデザインもさることながら、華やかな柑橘系の香りと爽やかな苦味が後を引きます。
「カーンザはもちろん、酵母もホップもすべて有機栽培なので、土壌は健康に保たれ、そこには多様な生き物の命が育まれます」。

また、オーガニックオリーブ油に漬けたサーモンも、徹底した資源管理を行う漁業者との協力で作られています。個体数が豊かで持続可能な群れのみから捕獲する。また、一網打尽に捕り尽くす昨今の刺網漁ではなく、伝統的な漁法に立ち返り、狙った魚だけを選別して捕る。
天然のサーモンは、川の上流で待ち受けるワシやクマの栄養源でもあります。こうした漁業の在り方は、食物連鎖を守ることにも繋がっているのです。





50年、100年先の農業や漁業を見つめ、正しいと信じるやり方を貫く人々。
パタゴニアは彼らと手を携えることで、危機に瀕する自然環境の再生に自ら寄与すると同時に、食業界、さらには日々食と向き合うすべての人に、この現状と打開のカギを提示しています。
そう、コットン市場の変革を、今度は食の世界で巻き起こすべく。

食を通じて、世界を理解する。


世界各地を旅し、自然の中で生きる人々と食事を共にしたイヴォン・シュイナードは言います。
「私たちが食べるものは、たんにお腹をいっぱいにして体に栄養を与えるだけではありません。良い食品は私たちの魂を高揚させ、世界をより深く理解する手助けをしてくれます」

食べることは、生きること。
何を食べるかという選択を通じて、いかに社会と向き合って生きていくのか。
パタゴニア プロビジョンズは、我々消費者に問いかけています。

Patagonia Provisions パタゴニア プロビジョンズ
http://www.patagonia.jp/provisions.html


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