or WASTE

EUROPE

「オステリア・フランチェスカーナ」マッシモ・ボットゥーラシェフに聞く フードロスに立ち向かう食堂「レフェットリオ」とは?

text by Naoko Ikawa / photographs by Masakatsu Ikeda

もはや世界中が危機感を抱いている、食料廃棄、またはフードロス。この問題に対して、積極的に行動しているのがイタリア「オステリア・フランチェスカーナ」オーナーシェフ、マッシモ・ボットゥーラだ。
2016年「世界ベストレストラン50」で世界1位、ガストロノミーの頂点に立ったシェフであると同時に、問題意識を持ち“行動”する料理人でもある。
彼の活動が、日本で広く一般に知られたのは2015年、ミラノ万博と同時に立ち上げた「レフェットリオ(食堂)」あたりからではないだろうか。
万博開催期間中は世界のトップシェフら60名あまりが参加し、廃棄対象食品を素晴しい料理に変えて、恵まれない人々に無償提供した。食べ手は、シェフたちの経歴も、顔や名前すら知らない路上生活者や難民たちだ。

ボットゥーラ自身はこれを「チャリティーではなく、文化的なアクション」と語り、「レフェットリオ」は万博終了後も継続している。
このプロジェクトは世界から注目を集め、密着ドキュメンタリー映画『ライフ・イズ・シネマ』(Netflixで配信中)になった。また食料廃棄問題をテーマにした映画『Wasted! The Story of Food Waste』にも出演、2017年10月にアメリカで公開された(日本での公開は未定)。
日本ではこの11月、「レフェットリオ」をはじめとするマッシモ・ボットゥーラの活動、哲学、半生、料理、そのすべてを追ったノンフィクション『世界一のレストラン オステリア・フランチェスカーナ』(著・池田匡克、河出書房新社)が発売される。これを機に、来日中の彼にインタビューすることができた。

1人の料理人の電話で世界のトップシェフが動いた

――「レフェットリオ」のアイデアはどこから生まれ、どうして実行できたのですか?

ミラノ万博のテーマは「地球に食料を、生命にエネルギーを」でした。つまり地球環境を考え、食を無駄にしないこと。 食の貧困とフードロスを解決すること。それらをイタリアから世界へ発信するために、何がベストな方法だろう?と。僕はカトリック教会や慈善団体などさまざまなところから相談を受けて、提案したのが「レフェットリオ」です。
万博やミラノ市内の廃棄対象食材(賞味期限切れでなく期限直前のもの、鮮度の落ちた野菜、固くなったパンなど)を利用して、トップシェフたちの手で料理に変え、恵まれない人に無償で提供しようと。

最初は全く簡単じゃありませんでした。「たった一人の料理人が、世界中の料理人と組んでそんなことできるわけがない」って、誰も僕の話を聞いてくれないのだから。
その中で、最初に理解してくれたのがカトリック教会です。実現にあたっては「万博」というタイミングも非常によかった。世界中が話題にしてくれて、世界にコミュニケートする機会を得ることができたから。

――世界のトップシェフたちが協力してくれたと訊きました。フェラン・アドリアも4年ぶりに厨房で料理を作ったとか。

そう。ほかにアラン・デュカス、レネ・レゼピ……日本からは成澤由浩も。僕は30分で50人のシェフに直接電話をし、彼らはすぐにボランティアで参加すると言ってくれました。
料理人だけじゃなく、建築家、デザイナー、アーティスト、家具メーカー、厨房機器メーカーなどがチームになって、廃墟だった1930年代の劇場を素晴しい食堂に再生したのです。
最初は、本当はガード下でやりたかったんですよ。戦後イタリアの貧しい時代を描いた『ミラノの奇蹟』という映画があって、その舞台がミラノ中央駅のガード下だったから。
しかし教会が「現代の貧困は都市の郊外にある。そういう場所にこそ光を当ててほしい」 と。そこでミラノの周辺部にある、ミラノ一貧しいといわれるギリシャ地区に作りました。近くでは難民も暮らしている地域です。

「レフェットリオ」は、いろいろな人たちの協力で貧しかったエリアを明るくすることができた。「周辺部」というのは一つのメタファーで、「都会の周辺」という意味だけでなく、「人間としての周辺」で生きている人たちに対しても明かりを与えることになったと思っています。

――ミラノ万博の後、非営利活動「Food for Soul」を立ち上げて、リオデジャネイロ・オリンピックでも「レフェットリオ」を開催しましたね。

それだけでなくモデナ、ボローニャ、ナポリ、ロンドン、パリ、さらにはニューヨーク、アフリカのブルキナファソ、モントリオールと続いていきます。僕は「レフェットリオ」を世界中に広めていきたい。ゆっくり、ゆっくりでいいから。 イタリアでG7が開催された際、僕も食の未来、とくにフードロスに関して話をしました。その時にイギリスの農水大臣が「レフェットリオの活動は素晴らしいから、イギリスでもやってくれないか」と言ってくれて、今年6月にロンドンで。 日本とも、2020年の東京オリンピックに向けて話をしているんですよ。まだわからないけどね(笑)。でも実現できたら、日本にとって良いスタート地点になるんじゃないかな。


「オステリア・フランチェスカーナ」というリストランテ自体も、
変わっていかなければいけない

――「レフェットリオ」から派生した活動はありますか?

この11月、英語版ですが「レフェットリオ」に参加してくれたすべてのシェフたちの廃棄食材を使ったレシピ集『BREAD IS GOLD(パンは金なり)』が発売されました。
どんな料理かというと、例えば「フジッリ・コン・ペスト・ディ・トゥット」。「ペスト」とはサルサ・ジェノヴェーゼ(ジェノヴァ風ソース)のことで、一般的にはバジリコと松の実を使います。
しかし「レフェットリオ」では、松の実の代わりに固くなったパンを。クロッカンテな食感が出るし、 松の実は油脂分が多いので重くなりがちですが、パンならば軽い。バジリコもすべての量は賄えないので、ミントやタイムも加えます。結果、ジェノヴェーゼに比べて非常に複雑な味わいになり、しかも安い。「オステリア・フランチェスカーナ」では、まかないでジェノヴェーゼと言えばこれです。

また店のメニューである「リーゾ・カーチョ・エ・ペペ」というリゾットは、2012年、地元エミリア=ロマーニャ州の地震によって36万個のパルミジャーノ・レッジャーノが破損した、それを救うための料理。「オステリア・フランチェスカーナ」というリストランテ自体もまた、変わっていかなければいけないと思います。

――フードロスに対する問題を意識し始めたのは、いつ頃から?

それは子供の頃からですよ。
僕の生まれ育ったエミリア=ロマーニャ州モデナは手打ちパスタの文化圏で、いつも祖母が手打ちパスタを作ってくれました。で、食べ終わるまで席を立ち上がってはいけないよと。つまり「食べ残してはいけない」という教えです。 昔のイタリアの家庭では、豚を一頭潰してさまざまな料理に使い、端肉も残さずサラミなどに使います。それは精神的な行為でもあるのです。命をいただくこと、家族を養うために死んでいく豚に対してのリスペクト。どんな食材に対してもリスペクトは持っていなければいけない。
フードロスのことを、イタリア語では「アンティスプレーコ」と言います。食材を無駄にしないという精神は、イタリア人として子供の頃から体に染み込んでいることです。

手打ちパスタと言えば、最近では「イル・トルテッランテ」という新しい活動をしています。モデナの伝統パスタ「トルテッリーニ」の作り方を、モデナのおばあちゃんたちが障害をもつ子供達に教える。それをレストランに売って仕事にしようという、社会貢献のプロジェクトです。
障害をもつ子供達は、18歳で学校を卒業すると未来を絶たれてしまう場合が多く、一つにはもちろんそういった若者たちを助けるという目的。そしてもう一つは、そのままでは失われてしまう技術を若者に伝えることで、エミリア=ロマーニャの食文化の継承にもなるということ。このプロジェクトは今回、ここで初めて発表することですよ(笑)。


食材を無駄にすることは、無知そのもの ――ドキュメンタリー『ライフ・イズ・シネマ』の中でも、さまざまなシェフが問題意識を抱えていました。その上で、アラン・デュカスは「彼らの人生は変えられないが、幸福な2時間は与えられる」と語り、レネ・レゼピは「料理人が人助けをしたいと思うのは自然なこと。それが仕事だ。僕らは毎日食事を提供している」と自覚していましたね。

常に食の現場にいる料理人にとって、最も重要な“素材”は、文化、知識、意識、責任感だと考えます。「文化」を学ぶことで「知識」を得ることができ、知識は「意識」を形作る。そして意識は「責任感」を産むということ。それは料理人を成長させる。
食材を無駄にすることは、無知そのものです。世界では年間13億トンの食品が廃棄されていますが、その1/4の廃棄食品で世界中の貧困層を救うことができるのです。
「世界ベストレストラン50」での1位に意味があるとすれば、みんなが僕の発言を訊いてくれるようになったということ。今、僕には「レフェットリオ」で得たことを世界中の人々とシェアする責任があります。

――その1位ですが、2002年に大会がスタートして以来、イタリアとしては15回目にして初めての獲得となりました。イタリア現地におけるイタリア料理界の“今”を、シェフはどう捉えていますか?

今、イタリアは非常に素晴らしい時代を迎えていると思います。これほどまでにイタリア料理のレベルが上がった時代を僕は知りません。
何が素晴しいかというと、イタリア中のさまざまな地方における「ミクロクチーナ(限定された地域の料理)」の伝統、食材、思想といったアイデンティティを持ちながら、それを革新・進化させた料理、才能溢れるシェフたちが各地に同時多発的に生まれてきているのです。
たとえばシチリア「ドゥオモ」のチッチョ・スルターノ、トレンティーノ=アルト・アディジェ「ザンクト・ウベルトゥス」のノルベルト・ニーデルコフラー……たくさん、たくさん。

――「ザンクト・ウベルトゥス」はつい先日、イタリア版『ミシュランガイド2018』で同州で初の三つ星を獲って話題となりました。これまでガストロノミーではあまり注目されていなかった地域からも、次々と新しい才能が頭角を現しているのですね。

日本では東京主導だと思いますが、イタリアでは昔から地方が強い。しかし今の時代はさらに、その地方ごとに世界に通じるトップレベルのシェフたちが生まれている。最も成熟している時代です。


イタリア・フィレンツェ在住のジャーナリスト池田匡克氏が上梓した『世界一のレストラン オステリア・フランチェスカーナ』が河出書房新社より発売。「レフェットリオ」をはじめとするマッシモ・ボットゥーラの活動、哲学、半生、料理、そのすべてを追ったノンフィクション。

マッシモ・ボットゥーラ氏のインタビューの様子もあわせてご覧ください。

Data
◎ Osteria Francescana

Via Stella, 22, 41121 Modena MO, Italy
☎ +39 059 223912
https://www.osteriafrancescana.it/

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